法務局による自筆証書遺言の保管制度に関する問い合わせがたいへん増えております。
このページでは、法務局の遺言書保管制度について、解説します。
法務局の遺言書保管制度とは
「民法に定める自筆証書遺言の形式に適合するか」を法務局がチェックし、遺言書の原本と画像データを長期間適正に保管・管理してくれる制度です。
これにより、遺言書の紛失・忘失・破棄・改ざん等を防ぐことができます。
本制度のメリット、デメリットを確認してみましょう。
遺言書保管制度のメリット
法務局が保管するので紛失等のおそれがない
遺言書の原本と画像データは、法務局において長期間保管されます(原本:遺言者死亡後50年、画像データ:遺言者死亡後150年)。そのため、書いた本人が紛失してしまったり、発見した第三者に不正に破棄、改ざんされるおそれがなくなります。
自筆証書遺言を書いたのはいいが、適切に保管できるかわからない、といった不安を解消できます。
家庭裁判所の検認手続きが不要となる
自筆証書遺言の場合、相続開始後、遺言書の保管者又は発見者は、直ちに家庭裁判所へ遺言書を提出し、検認手続きを受けなければなりません。
しかし、法務局で保管された自筆証書遺言に関しては、この検認手続きが不要となります。
自筆証書遺言のデメリットの一つが、法務局の保管制度により解消されることになりますね。
比較的安価で保管してもらえる
遺言書の保管申請手数料として、3,900円(収入印紙)がかかります。
公証役場にて作成・保存される公正証書遺言と比較しても、非常に安い費用で保管してもらえるといえます。
死亡時に通知してもらえる仕組みがある
通知には、「関係遺言書保管通知」と「指定者通知」という2種類の通知があります。
これらの通知の仕組みにより、作成した自筆証書遺言が忘れ去られてしまうことを防ぐことができます。
遺言書保管制度のデメリット
この制度特有の様式にしたがって作成する必要がある
この制度を利用するには、自筆証書遺言の要件を満たすことに加えて、この制度特有の様式に沿って、遺言書を作成する必要があります。
サイズをA4にしなくてはいけない、決められた幅の余白をとらなければいけない、など、いくつかの様式を守る必要があります。
必ず本人が法務局に行く必要がある
管轄の法務局(遺言者の住所地、本籍地、所有不動産の所在地)に予約を取り、遺言者本人が当該法務局に赴いて、保管申請をする必要があります。
親族等が遺言者本人の代わりに、遺言書を持って行って申請することはできません。
法務局はあくまで形式面のチェックしかせず、内容の確認はしてくれない
公正証書遺言における公証人のように、複数回打合せをすることはありません。完成した自筆証書遺言を持って行き、形式面(自筆で書いているか等)のチェックを行うのみでその日のうちに保管となります。
財産の記載方法の不備や、財産の記載漏れ等はチェックされないため、結果的に無効な遺言書となってしまう可能性は十分に考えられます。
登録した内容に変更が生じた場合は、届出をする必要がある
この制度を利用する際の申請書には、遺言者の住所・氏名はもちろん、受遺者、遺言執行者、死亡時通知対象者がいる場合には、その者の住所・氏名を申請書に記載します。
これらの者の住所や氏名に変更があった場合は、その旨を届け出る必要があります。
記入した遺言書自体は戻ってこない
自筆の遺言書ではありますが、その原本自体は、相続発生後も返却されません。
大きなデメリットではないかもしれませんが、亡くなった方の自筆の書面が戻ってこないというのは、個人的には少しさびしい気持ちになります。
できたばかりの制度のため、未知数な部分もある
この制度は令和2年7月10日に開始された、まだ新しい制度です。
そのため、今後少しずつ制度が変わっていく可能性もあります。
また、メリットの一つとされている通知制度のスピード感がどのようなものなのか等、未知数な部分が多い制度であるため、現場の実態等は引き続き注視していきたいところです。
まとめ
いかがでしょうか。
自筆証書遺言のデメリットを補完できるという側面で見ると、この遺言書保管制度は大変有益な制度であると思います。
しかし、この制度によって「遺言の内容が確実に実現されるか」という部分に関しては、この制度を使ったから問題ない、とは言い切れません。
自筆証書遺言を作成した際、法務局への保管申請の予約を取る前に、是非とも専門家に一度、内容の確認をしていただきたいと思います。思いがけない不備等が見つかるかもしれません。
弊所においても、遺言書の作成前から実際の遺言執行の実現、そして相続手続きの完了まで、すべての段階においてサポートをさせていただております。
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